近年の医学研究では、薬物アレルギー発症の大部分が、服用者にある特定の遺伝子型に関係があることが実証されている。しかし、この特定の遺伝子がない服用者でも、重度のアレルギー反応が起きる場合もある。
薬物アレルギーの謎を解くため、台湾有数の総合病院、長庚紀念医院は、台湾、欧米などのアレルギー性皮膚炎に関する多国籍研究チームと提携した。その結果、人体の免疫システムの中の「T細胞受容体(T-cell receptor:TCR)」が、強力な殺傷能力を有するキラーT細胞の活性化、重度の薬物アレルギー反応を引き起こす異常たんぱく質やサイトカイン放出のカギを握ることがわかった。なお、この研究成果は8月に、オンライン限定の学術誌「Nature Communications」に掲載された。
スティーヴンス・ジョンソン症候群(SJS)や中毒性表皮壊死症(TEN)は、アレルギー反応の重篤な皮膚症状を引き起こし、生命を脅かすほどの恐ろしい疾患だ。全身に紅斑が出るほか、水泡やびらんが多発し、多臓器不全、敗血症などを合併することもある。現在、台湾薬害救済基金会に寄せられる薬物救済申請のうち、半分以上がSJSやTEN患者によるものだという。
長庚紀念医院らの研究チームは、重度のアレルギー反応を発症した患者が、薬物に対して特異的なHLA遺伝子型(HLA-B*1502など)を保有しているほか、皮膚におけるT細胞も、薬物の化学構造に対応している特殊なT細胞受容体を持つことをつきとめた。アレルゲンとなる薬物が異なるアレルギー患者は、T細胞受容体遺伝子型も異なる。また、人種にも関係がなく、欧州とアジア諸国の患者でも、同じT細胞受容体を持つことがある。
言い換えると、もしこの特殊なT細胞受容体遺伝子を保有していなければ、T細胞がアレルギー症状を引き起こす可能性のある薬物(抗てんかん薬のカルバマゼピンなど)に対しても、アレルギー反応を起こすことはない。
この研究結果は、さらなる研究テーマを生んだ。研究チームは現在、低分子医薬品が特定のキラーT細胞を活性化させる研究技術を積極的に利用し、キラーT細胞でがん細胞を攻撃する革新的な免疫療法を導入している。